※編集:今回はイラスト講師として活動している浅利治武さんの講座をお届けします。
今回は「なかなか絵が上達しない」と感じている方に向けて、絵を描く前に知っておきたい「物の観方」についてご紹介します。
まず、「そういう物の観察の仕方と、絵とは何なのか?」という根本的な基礎についてのお話をしていきます。このお話を読み終わる頃には、「絵って実はこんなに簡単!」ってことを学んでいただけると幸いです。
▼目次
絵が上達する人としない人の違いとは?
絵が上手くなる人と上手くならない人の決定的な違いのひとつは「物の観方」にあります。
絵が上手くならない人は、描こうとする対象を「線の集合体」として観察していることが多いです。
この「線の集合体として観察する」ことを、本記事では「線画症候群」と呼ぶこととします。線画症候群という物の観方に囚われると、本来観察すべき「面の意識」が完全に欠落し、描く対象の「輪郭線のみを探そう」という状況に陥りやすいです。
例としてトーストという立体を描くときの物の観方の違いを再現しました。
線画症候群に囚われた物の観方で描く手順は上図のようになることが想像できます。線1本1本に意識が集中し、描いている段階では面の形が見えていません。線を全て描き終わっても絵として少し違和感があります。
対して、輪郭線を探さず塊で観る描き方の手順はとてもシンプルです。
絵が上手くならない人が陥る「線画症候群」の特徴とは?
絵は写真ではないので、物を観察することによって沢山の情報を仕入れ、必要なものと不要なものを選別し、最後に自分のアレンジを加えて完成する物です。
しかし、線画症候群に囚われると、対象物を観察して情報を仕入る段階から、輪郭線以外の膨大な情報を捨てにかかります。
描こうとする対象物の色も影も立体感も、観察の段階から観ずに捨ててしまう。だから、色が塗れない、影の付け方が解らない、立体感ある絵が描けないという状況に陥るわけです。
絵は描こうとする対象物を見れば描けることを皆さんは知っています。そして日常様々な物を見ています。それでも描けないのは、その観方が違うからです。
なぜ「線画症候群」に囚われるのか?
僕自身、33年もの長い間線画症候群に囚われていました。何故そうなったのか?というと、絵を勉強するときに僕が参考としてみていた絵が全て「影がついていない線画で描かれていた」からです。
学ぶ人は真似をします。線画で描かれた絵の解説を見ると、学ぶ人は当然それを真似て線画を描きはじめます。線画を観て絵の勉強をするから線画を描いてしまう。現実の中にある対象物を観察するときにも、「線画を描くための物の観方」をしてしまうため、輪郭線のみを探してしまう、となってしまうわけです。
「線画症候群」から抜け出す方法
さて、この線画症候群から抜け出す方法があります。それは絵を描くという行為自体への認識と物の観方をガラっと変えてしまうことです。
絵を描くという行為の認識を変えよう!
まず、絵を描くという行為に対する認識を変えましょう。キャンバスの白色と、ペンの黒色の本当の役割を考えてみます。
覚えておきたいのは下記の2点です。
- キャンバスは最高に白く光っている「面光源」
- ペンは光を覆い隠して光らなくする「遮蔽装置」
デジタルの場合は、モニタが光っているためキャンバスが光っていることが分かりやすいですね。
アナログの場合は、紙そのものが光るわけではないので、光源からの光をキャンバスが反射することで光ります。
キャンバスとペンを面光源と遮蔽装置で考える
キャンバスは白いです。なぜ白いのか?というと、キャンバスは光を反射するか自ら発光することによって、白く光っているからです。つまり、キャンバスは「面の形をした光源=面光源」であるということが言えます。
加えてお話すると、キャンバスは最高に白く輝いているため、ここに白色で何かを描いても、キャンバスの白色と同じ色であるため、観ることができません。
一方のペンは基本的に黒色です。黒色というのは光を反射しない色、光を覆い隠してしまう色です。色というより「光らなくする行為」と言った方が良いでしょう。
つまり、キャンバスとペンの関係は「光る白」と「光らなくする黒」であり、絵を描くとは、白く輝く面光源のキャンバスに、光らなくする黒色のペンで「光を遮蔽」する行為であるということです。
今回のポイント!影だけ塗れば絵が描ける!
さて、キャンバスとペンの関係を理解すれば、絵は「色を加味した影の濃さを写し取れは描ける」ということが分かります。
ここで物の観方を変えてみましょう!絵は線を描くのではなく「影を塗る」ことで形を成すという観方です。
以下に影を観て、影をキャンバスに写し取って描いた絵の例をご覧下さい。もし、この例の絵を線画で模写しようとすると、とても大変ですが黒く見える部分を全て影として捉え、ひたすらキャンバスを黒く塗ってゆけば、造作もなく全く同じ絵が完成します。
この例の絵は一見、描くのがとても難しそうに見えます。でもそれは、描き方を知らないからです。影を見て影をペンでキャンバスに拾っていくという描き方を知り、実際にこれをやってみれば、このような絵を描くのはとても簡単なだと分かります。即ち、影を塗って描けば線で描くよりも絵は簡単に描けるということです。
影を全て拾っていては大変だから線画で描く
しかし、絵を描くたびに、全ての影を描いていては1つの絵を描くのにとても時間がかかります。ですので、影を拾って描くという感覚に慣れてきたら、次は「影を省略」に挑戦してみます。影をだんだんと省略していくと、最終的にこれは「線画」へと昇華します。
線画というのはこの、全ての影を拾って絵を完成させるという過程を沢山経験し、描き慣れて、影の省略の仕方が分かってはじめて体得される、技術の極み「達人の技」なのです。
まとめ
線画は一見すると簡単そうに見えます。しかし、その線画がどういう理屈でそのような線画となっているのか?を知らなければ、線画を生み出して絵を描くことはできません。
ですので、絵が何であるのか?をまだよく解らない段階の方がいきなり線画から絵を描き始めると「なぜ線画がそういう形になっているのか?」が分からず、そこで絵の上達の歩みは停止することあります。
線画を探し、線画に囚われた絵の描き方を一旦横に置き「絵とは何なのか?」を知り、描くことの意味を理解すれば、絵って実はこんなに簡単に描けるんだ!と、気持ちが晴れ上がり、絵を上達させていく歩を再び進める事ができるようになると、僕は考えます。
今回は意識を線から面と影に変えようというお話でしたが、機会があれば、面と影を形作る「塊の秘密」についてもお話したいと考えています。
著・画 浅利治武
お絵描き私塾のイラスト講師・お絵描きYouTuberです。
Twitter:https://twitter.com/Asariosamu
YouTube:https://www.youtube.com/c/OekakiAsari