一枚絵を描いていると忘れがちですが、ポーズを作るとは、時間の流れの一瞬を切り取ることです。
例えば、「殴る」という動作。動画ならば殴っている様子を0から100まで描けば、見る人に伝わります。しかし、イラストの場合は静止画だけで動作していると伝えなくてはなりません。
同じ殴るという動作でも、切り取る瞬間が違えば、印象も大きく変わります。また、切り取る瞬間の前後を想定しながら描くことで、右手はどんなポーズにしよう、左足の曲げ方が決まらない、といったポージングの際の曖昧な悩みが解消されます。
今回の記事では、そんなポージングを作るための考え方をご紹介します。
▼目次
ポーズの基本
ポーズを考える前に、体を使ったポーズの基本について考えてみましょう。
曲げ伸ばしを考える
一般的な身体で可能な動きは、関節を軸にした、
- 曲げる動作
- 伸ばす動作
の2種類しかありません。
つまり、ポーズを考えるときは手、腰、首などそれぞれの部位が
- 曲げ切った状態 なのか
- 曲げる途中の状態 なのか
- 伸ばす途中の状態 なのか
- 伸ばし切った状態 なのか
を考えながら描く必要があります。
用途を考える
次に、各部位のポージングにおける用途を考えてみましょう。
用途は主に、
- リラックス用の動作
- バランス用の動作
- 力を込める用の動作
があります。
リラックス用の動作
特に明確な目的がない場合や、動作に入る前段階のポーズです。
バランス用の動作
例えば、投げるなどの補助として、体のバランスを取ったり、反動をつけたりするための動きです。
力を込める用の動作
主目的のために筋肉を使って力を込める部位を指します。
用途を兼任する部位や途中で切り替わる部位があるため、明確には分類できませんが、今描いているパーツが「何のためにその曲げ伸ばし状態になっているか」を考えておくことは重要です。
動きの流れを知ろう
次に動作の流れを考えていきましょう。
たとえ描くのは静止画だとしても、前後の流れを想定していないと、どのパーツをどの程度曲げ伸ばしすればいいのかわかりません。
1.リラックス状態
今回は、作例として「力いっぱい殴る」動作で解説します。わかりやすく平静の状態からスタートします。
身体を使った動きは、基本的にどれも同じステップを踏むので、自分が描きたい動作に置き換えながら読んでみてください。
2.反動をつける
目的の動きとは逆の方向に重心を移動させ、反動(予備動作)をつけます。これは、動きがダイナミックなほど反動も大きくなります。
逆に、軽く殴る程度ならば、大きく反動をつける必要はありません。大きくジャンプするには、長い助走が必要なのと同じです。上にジャンプするなら、体を曲げて下方向に沈み込みます。
3.重心を動かす
次に、進行方向に重心を動かします。
4.腰の力を利用する
腰の力を利用して身体を大きくひねる、または曲げ伸ばします。
ポーズ作りにおいて、特にこの腰回りの動きが重要です。全身を使った動作はほとんどが腰、お腹回りを核にして行われます。腰のヒネリや曲げ伸ばしをしっかり描くと躍動感のあるポーズを作りやすいです。
5.順番に関節に力を込める
基本的に、アクションは腰からの流れで順番に力を込めていきます。作例では腰の次に肩に力を込め、腕を進行方向に持っていこうとしています。
肩の次は、肘がこぶしを進行方向に持っていこうと力を込めています。
6.動作が完了する
あとは目的だった「腕が伸び切った状態」に至るまで体を動かすだけです。
ポーズによって、右腕が伸び切った状態がゴールだったり、足が曲がる途中がゴールだったりするので、自分が作りたいポーズに合わせてみてください。
正確には、この後に余韻(後追い)となる動作もあります。例えば、ジャンプした後の着地など。必要な場合はそこまで想像しておくといいでしょう。
切り取る瞬間を選ぼう
動きの流れを把握したら、さっそくイラストとして切り取る瞬間を選びましょう。
動きのどの部分を切り取るかは、好みやイラストの用途によって変わってきますが、
- 反動をつけている瞬間
- 腰の動きを利用している瞬間
- 動作が完了した瞬間
が効果的に絵をよく魅せるポージングです。
反動をつけている瞬間
これから動きが始まるぞ、という合図です。見た人は次の展開が気になってそこにドラマ性を感じてくれます。
欠点は、主目的となる動作が描かれていないこと。他に状況説明の要素が付随していないと、何をしようとしているポーズなのか伝わりません。
腰の動きを利用している瞬間
いわゆる爆発寸前の圧縮状態です。力強さ、緊迫感などを演出する際に効果的です。
動作が完了した瞬間
ポーズを描く際に最も適した瞬間です。動作が完了しているため、見ている人に何をやっているのかがダイレクトに伝わります。
多くの場合、この瞬間を選択すると思いますが、その前の流れを想定していないと、右足をどこにおいていいかわからない、髪の毛はどっちになびかせたらいいんだ……といった問題にぶつかります。
動作の切り取り
作例で実践です。今回は「小刀を刺そうとする少女」を描きます。
上の作例でも、目的の動作は完了しているのですが、棒立ちのため躍動感がありません。なので、もっと動作の流れを想定してポージングしてみます。
先ほどの棒立ちをリラックス状態として、今度は刺すための反動をつけた瞬間を切り取りました。同じ「小刀を刺そうとする少女」でもだいぶ印象が違うのではないでしょうか。
次は、腰の回転をつけた瞬間です。
最後に、手が伸び切って「刺す」という動作を完了した瞬間です。あとは見る人にどの程度の衝撃を与えたいかなどの用途によって選択します。
このように、時間の前後関係を想定してポーズを作ると、右腕、左足、腰の角度など、すべてのパーツにちゃんと意味を見い出せ、スムーズにポージングできます。色んな動きを頭の中に描いて、好きな瞬間を切り取ってみてください。
著・画 ゼロモモ
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