イラストレーターと一緒に作り上げてきた6年。 『探検ドリランド』のイラスト担当者に制作術を聞いてみた。

イラストレーターと一緒に作り上げてきた6年。 『探検ドリランド』のイラスト担当者に制作術を聞いてみた。

『探検ドリランド』、皆さんは知っていますか?

 

『探検ドリランド』はグリーのソーシャルゲームで、某農業ができるアイドルグループによるCMでも有名な、同社を代表するヒットタイトルの一つです。

 

現在でも多くのファンに支えられ、今年6周年を迎えました。それを記念して4月29日、30日に秋葉原にて『探検ドリランド』ファン感謝イベント「キングスアカデミー」が開催されました。

 

想定の3倍以上のファンが集まり大盛況となったというこのイベントに参加しつつ、同タイトルのカードイラスト担当の方にキャラクターイラストの制作工程とイラストのクオリティの上げ方についてお話を伺いました。

 

『探検ドリランド』ファンの方はもちろん、ゲームイラスト業界で働いている方、目指している方は是非ご覧ください。

 

▼もくじ

『探検ドリランド』6周年ファン感謝イベント「キングスアカデミー」に行ってみた

イラストはどのように発注されているのですか?

どういう工程でイラストを描いていくのですか?

実際のフィードバック工程

『探検ドリランド』のキャラクターデザインのこだわりとは?

クオリティの上げ方とは?

イラストレーターのみなさまへのメッセージ

 

 

 

 

『探検ドリランド』6周年ファン感謝イベント「キングスアカデミー」に行ってみた

探検ドリランドキングスアカデミー会場

 

「キングスアカデミー」は中学校校舎を改装して作られたアートセンター『3331 Arts Chiyoda』にて開催されました。「アカデミー」というイベントのイメージ通りのロケーションです。

 

探検ドリランドキングスアカデミー会場

 

グリー社全体でも初となる自由参加型のイベントでしたが、開場前から多くのファンが列を作っていました。6周年を迎える人気タイトルならではですね!

 

探検ドリランドのガチャガチャ

 

イベント会場中央に設置された巨大な本物のガチャガチャ筐体。ここから出てくるカードとシリアルコードで限定のボス戦に挑むことができる「アカデミーのトレーニングマシン」という設定です。

 

キングスアカデミー講義中

 

アカデミーの名にふさわしく、なんと特別授業も開講。キング博士による、デッキ作成考察や抜き打ちテスト、ゲーム最新情報などがレクチャーされました。

 

さすがゲームの授業だけあって冒頭に「授業中もゲームプレイしてもいいですよ!」とアナウンスされましたが、誰一人ゲームに興じることなく特別授業に集中していました。

 

探検ドリランドギャラリー
 

探検ドリランドギャラリー

 

メインコンテンツは歴代ボスモンスター「キング」のイラストを紹介したギャラリー。最初期から現在に至るまで、人気のボスモンスターイラストを解説とともに堪能できます。

 
探検ドリランドノベルティグッズ

 

参加者には特製のノベルティグッズも配布されました。

 

ここでもゲーム中のイラストをリアルに再現したシールや作中の人気キャラクターイラストを一覧できる公式キャラブックは特に好評でした。

 

探検ドリランド来場者

 

このようにゲームの顔としてプレイヤーに愛され続けるキャラクターイラストは、どうやって生み出されているのでしょう?

 

カードイラストを発注し、イラストへのフィードバック(改善、修正依頼)を担当されているスタッフのお二人にお話を伺いました。

 

お話をしてくれた方

グリー『探検ドリランド』プランナー:Iさん

企画や予算管理、イラストの発注、キャラクターのゲーム中での使用状況やゲーム内の様々なものの名称の管理など、『探検ドリランド』全体の世界観管理をされている方。プランナーだけど絵が上手い。

 

好きな作品:遊戯王、幻想水滸伝シリーズ、仮面ライダー電王(特にロッドフォーム)

 

グリー『探検ドリランド』デザイナー:Nさん

元々趣味でイラストを描いていたが、友人の紹介やMUGENUP経由でのフリーを経て、現在は『探検ドリランド』のスタッフとして活躍中。もちろん絵が上手い。

 

好きな作品:キン肉マン、ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ、ロックマンエグゼ

 

イラストはどのように発注されているのですか?

Iさん

『探検ドリランド』では、イラストレーターさんやアートハウスさんにモチーフ書というデータをお送りして発注しています。

モチーフ書には、キャラクターの名前、属性、性別、レアリティなど、描いていただきたいイラストの要素を記載しています。

 

実際にモチーフ書を見せていただきました。

 

記者さん
「背中に光る羽が生えています」「髪を束ねています」「魔法の杖を持っています」「ポーズはこういう感じです」などのキャラクターの要素の説明文に加えて、それぞれの要素ごとにイメージ画まで用意されているんですね。

これだけ細かく情報をもらえれば、発注側と描く側とで「イメージが違った!」ということを防げそうですね。

 

どういう工程でイラストを描いていくのですか?

主にラフ、線画、配色、仕上げというステップで進み、そのステップごとにお送りいただいてフィードバックをしています。

実際にはいきなり線画という方もいますし、配色の前におおよその色使いを先に見せてくださる方もいます。各イラストレーターさんのやりやすいステップでチェックさせていただいています。

 

フィードバックの文章も見せていただきました。

 

おお、「かわいいですね!」という褒め言葉から始まってる! こういう言葉があるとイラストレーターさんもやる気が出ますね。
「直させるのではなく、直してもらう」「描いていただいている」という意識で、気持ちよくやる気をもって描いていただけるよう、フィードバックの文章の書き方も日々考えています。
Nさん
どうやったら伝わるか? みたいなのは一生懸命考えています。文章で説明しにくいことは、絵を描いて説明することもあります。
一つのイラストのフィードバックは基本的に一人の担当者が行いますが、線画や配色など「この要素はこの人がフィードバックするのが一番伝わるだろう」という場合は、得意なスタッフにバトンタッチして最適なフィードバックができるようにしています。

 

実際のフィードバック工程

フィードバックしていく過程のイラストも見せていただきました。SSキャラ「翠嵐剣姫ミリアネア」のできるまでです。

 

STEP1:初稿ラフ線画

翠嵐剣姫ミリアネア ラフ

 

最初のステップである線画。枠やレアリティ表記(SS)などの台紙は元々用意されています。

 

STEP2:フィードバック

翠嵐剣姫ミリアネア フィードバック

 

Nさんによる絵フィードバック(これに加えて文章でのフィードバックもあります)。右手をやや大きめに、武器を振り上げた左手はより高めに、髪の毛もより広がるよう修正が入っています。目鼻口のバランスもやや変わっています。また、頭部と体を接することでデフォルメ感が増しました。

 

STEP3:修正ラフ

翠嵐剣姫ミリアネア 修正ラフ

 

Nさんのフィードバックを反映することで絵のボリュームの位置が全体的に高めになり、よりアクティブな印象になりました。

 

STEP4:線画完成

翠嵐剣姫ミリアネア 線画完成

 

フィードバックを反映した線画の清書。これで線画の完成です。

 

STEP5:配色

翠嵐剣姫ミリアネア 配色

 

配色。線画と配色は別の方が担当することもあります。

 

STEP6:仕上げ・完成

翠嵐剣姫ミリアネア 仕上げ・完成

 

「翠嵐剣姫ミリアネア」はMUGENUPに登録しているイラストレーターさんによって描かれ、実際にゲーム中で活躍しています。

 

『探検ドリランド』のキャラクターデザインのこだわりとは?

デフォルメキャラクターであること、アニメ塗りであること、背景がないこと、台紙があること、正方形であることなど、一貫したコンセプトはいくつかあります。

中でも、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)でプレイされている方がとても多いタイトルですので、解像度が低い画面で見たときでもキャラの魅力が伝わることを大事にしています。
どんなシルエットで、このキャラクターは何をしているのか? など、縮小してもきれいに見えることはとても重視しています。
かなりノウハウが蓄積されているんですね。逆に、いろいろノウハウがありすぎると表現の自由度が無くなってしまうようにも思うのですが、どうでしょう?
確かにこれまで培ったパターンは重視していますが、イラストの良さって最終的にプレイヤーの方が「このキャラを自分の画面の中央に飾りたい! 誰かに自慢したい!」と感じてくれるかどうかと思っています。 

これまでのノウハウに沿っていないイラストでも、ゲーム画面の中央に置くと派手でカッコイイ! とユーザーさんに評価されることもあります。そういう作品を送っていただいたときは嬉しいですね。
逆の例で言うと、線画はよかったのに配色で落ち着いちゃったな、というときもあります。そんなときは線画の良さを活かすような色使いをイメージしてフィードバックしたりします。
「誰かに自慢したい!」とプレイヤーが思ってくれるイラストが描けたら、イラストレーターさんもスタッフさんも嬉しいですもんね。杓子定規にならずに、そこを目指しているんですね。

 

クオリティの上げ方とは?

たとえば配色に関してですが、フィーチャーフォンの場合、ページの情報量に非常に厳しい制約があるため、スマートフォンの場合256色まで使えるところ、64色や32色、ムービーの場合は16色という限られた色数の中で表現をすることになります。

元のイラストから色数を減らす作業を「減色」と言いますが、減色・縮小したときでもキャラクターが魅力的か? を考えたシルエットやバランスにしていただけると、クオリティが上がると思います。
色のはみだし、塗り残し、線が切れている、ゴミデータが入っている、など、イラストデータに不備があると、後々困ることになります。なので、そういった細かいところに気を付けてくださる方は「クオリティの高いイラストレーターさんだな!」と感じます。
ということは、単純に絵のクオリティが高いよりも、基礎的なことがきちっとできている人のほうが嬉しい……ということでしょうか?
あー、確かにそうかもしれません。

 

イラストレーターのみなさまへのメッセージ

キャラクターの線の太さなどをご覧いただけると分かると思うのですが、『探検ドリランド』では絵のテイストは統一しておらず、実は結構まちまちなんです。

 

ユーザーさんもそれを分かっていて「今回このイラストレーターさんのカードが出るからがんばろう」という風に、イラストレーターさんにファンがついたりしています。

描き手の個性が重要だと考えていますので、得意なもの、好きなものをどんどん描いていただきたいし、いいところをどんどん伸ばしていければいいなと思います。

探検ドリランドイラスト

「翠嵐剣姫ミリアネア」(左)「 聖焔剣帝ゾルドー」(中央)と「呪印蛮師アフィー」(右)。確かにキャラクターやエフェクトの輪郭線の色や太さ、目の大きさなどもまちまち。

一人で何種類も描ける人はいいですね。デフォルメされたイラストではキャラクターを年齢などで差別化するのが難しいので、表現の幅が狭いと単調になってしまいがちです。なので、絵の幅やパターンを増やすことも大事かなと思います。

 

イベント参加とインタビューを終えて

ビッグタイトルのイラスト監修担当者へのインタビューとあって、内心「一体どんな合理的なシステムでイラストを”生産”しているのだろう」と恐る恐るお話を伺ったのですが、そこにあったのは「イラストレーターさんに個性的な絵を描いていただきたい」「一緒に作品を作り上げていきたい」というマインドの、ものづくりを愛するスタッフさんたちの姿でした。

 

『探検ドリランド』はスタートから今年で6年になりますが、これはソーシャルゲームの中ではかなりのロングラン。「キングスアカデミー」とインタビューを通じて、愛され続けるタイトルを支える、プレイヤーとイラストレーターをつなぐスタッフの思いを実感しました。

 

探検ドリランドキングスアカデミーキービジュアル

著・いしじまえいわ

アニメライター / アニメ産業研究家 / SOS団東大支部団員

アニメ関連の記事の執筆の他、インターネットラジオ「植田益朗のアニメ! マスマスホガラカ」(文化放送)の番組協力など、アニメ関連メディアで幅広く活動しています。

URL|http://ishijimaeiwa.jp/

Twitter |https://twitter.com/ishijimaeiwa