MUGENUPのいまとこれから(1) クリエイティブ事業の立ち上げ - MUGENUP10周年企画インタビュー -
2021.06.14
本メディア「いちあっぷ」を運営する、株式会社MUGENUPは2021年6月14日に創業10周年を迎えました。今回はこれまでの記事と毛色を変えて、MUGENUP10周年企画記事をお届けします。
第二回となる今回は、クリエイティブ制作を支えるMUGENUPならではのシステムについて伺いました。
▼前回の記事はこちら
――前回のお話では、手探りで初めたMUGENUPのクリエイティブ事業が業界の成長に合わせて変化をしていく中で、クリエイターやクライアントからの信頼を得ることができたということでした。
丹治:
登録クリエイターがどんどん増えて数万人という規模になると、さすがに人の手でとりまとめるのは無理が出てきます。
そこで契約や制作、検収から支払いまでを社内で一元管理できるシステムを構築したのですが、それが会社の強みとなって、信頼を積み重ねていくことができたのかなと思っています。元々、MUGENUPの気質として誠実にやろうということが会社のベースにありました。
芝川:
それがWORK STATIONというシステムで、登録クリエイターが2万人くらいになった頃に開発しました。分業でイラストを制作する工程から、受発注、納品や支払いまでシステムで管理できることで業務効率が上がっていったんです。
――万単位の登録クリエイターを相手にするとなると、手作業では賄えない規模ですよね。最近でもよく原稿料の振込み忘れみたいな話を見聞きしますが、MUGENUPは出自がテック系ベンチャーということがアドバンテージになったんですね。
丹治:
一部、他の業界では現在も紙で契約を交わしたり、そもそも契約をまかずに仕事を始めることがありますよね。そういう部分をシステム化していないため、言った言わないのような揉め事が起きて信頼が損なわれるんだと思っています。
それならば、そもそも契約を完了しないと制作に入れないようシステムで担保してしまおうと。単純にデジタルコンテンツの制作の部分だけをクラウドに頼っているのではなく、契約から制作、検収、支払いまでを一気通貫にやれるようなシステムが、2013年半ばから現在までずっと稼働しているんです。
――他の業界だと編集者や制作進行がExcelとガントチャートでそういった管理をしているところが少なくありませんね。
芝川:
それこそMUGENUPも、初めは外部のクリエイターとFacebookでやりとりをしていたり、Excelの表にこの人の作業がここまで終わりました、みたいなチェックをして支払いをしたりしていました。
伊藤:
2012年の夏から秋にかけて独自のシステム構築を初めて、最初はWordPressのプラグインで実装できるSNSのようなものを使っていたのですが、専用ツールではないので欲しい機能が足りなかったりするんです。
やはりちゃんと作るしかないと考えてWORK STATIONの開発をスタートし、2013年の夏頃には支払い機能まで実装していました。
――そのシステムを元に開発したのが、2015年から展開しているプロジェクト管理ツール「Save Point」になるわけですね。Save Pointは実際にどのように活用されているのでしょうか。
伊藤:
元はMUGENUPがゲームのクリエイティブ制作で使っていたシステムなので、やはりゲーム業界で導入されることが多いですね。ミクシィさんやバンダイナムコエンターテインメントさんなど色々な企業で活用して頂いてます。
最近、ゲーム以外で導入が進んでいるのがグッズの制作や版権管理で、大きなところではサンリオさんがデザインの監修業務にSave Pointを使われています。
また、数年前からアニメ業界への展開をはじめています。アニメ制作会社と一緒に、制作現場で使うためには具体的にどんな機能が必要なのかを相談しながら、機能改善を行っています。これからどんどんアニメ業界にもアピールしていきたいなと考えているところです。
――アニメ業界や出版業界など社外のクリエイターとのやりとりが多い現場で、受発注や進行管理、納品物のクオリティコントロールまでSave Pointだけで賄えるようになるんですか?
伊藤:
アニメ制作会社の事例だと、現在のSave Pointは主にプリプロダクションと呼ばれる段階において、設定やデザインの制作をとりまとめる用途で使われています。WORK STATIONにあった受発注の管理機能は、実はまだSave Pointには実装されていません。
というのも、受発注は会社の経理と密接に繋がっていて、そのフローが各社毎に異なっているため、基本機能として実装すると逆にシステムが普及する壁になってしまうのではと考えたんです。
今はシンプルにクリエイティブの制作と、外部のクリエイターとのやりとりの部分を管理するシステムとして提供しているのですが、アニメ業界の方と話していると、やはり経理の仕組みをなんとかしたいということをよく言われます。
各社ごとにフローが異なっているにしても、ゆくゆくはSave Pointを導入することで受発注から支払いのフローまで一気通貫で対応できるようにしたいと思っています。
――MUGENUPは受託制作だけでなく、システムを通して様々な企業とお付き合いをしているという独特の立場にあるわけですが、クリエイティブ業界の現状をどのように見ていますか?
伊藤:
MUGENUPは後発の会社なので、だからこそ最初からシステムを前提にした業務フローになっているのですが、それをそのまま他の現場にもっていっても、既に構築されたその会社のフローがあるためいきなり導入することは難しいと言われることが少なくありませんでした。
ソーシャルゲームやスマホアプリ向けのイラスト制作は、業界として10年程の歴史です。しかし出版やアニメ業界などはそれよりもずっと長い歴史があり、既存の業務フローもあります。
だからこそ何とかしたいと思っているトップ層の方たちも数多くいらっしゃるので、そういう所にMUGENUPが今まで蓄積してきたノウハウを提供できるんじゃないかと考えています。
――ユーザーがコンテンツを楽しむ媒体も、クリエイターが創作する環境もデジタルにシフトする中、さらにこの1年でリモートワークの普及が加速しているという状況もニーズを拡大しそうですね。
伊藤:
オフィスに出社している時とリモートワークでは、どんなコミュニケーションをするかとか、ミーティングをセットするタイミングはどうするかなど、マネジメントの仕方も変わってきます。
MUGENUPは元からリモートでクリエイティブを作ってきましたから、自分たちだからこそリモートワークをサポートできるんです。実際、そういう部分を買ってくれて、リモートワークを導入したゲーム制作会社から、デザインチームの管理を依頼されることもありました。
リモートでプロジェクトを管理した経験があるスタッフはこれからどんどん価値が高まっていくはずです。MUGENUPがそういう人材を育てていったり、リモートワークが便利になる業務フローをどうやって構築するのかなど、課題をいち早くとらえて、それを強みにクリエイティブ業界で存在感を出していきたいですね。
――その一方で、多数の社外クリエイターと関係を維持していくために、企業側だけでなくクリエイターにとってのベネフィットも考える必要があると思うのですが、そこはどう考えていますか?
伊藤:
会社のミッションとして「創るを創る」という言葉を掲げているのですが、MUGENUPはこれまで、企業理念として「創ることで生きる人を増やす」ということをずっと大切にしてきました。
もちろんクリエイティブ業界で快適に働くことができる環境を作ることも、とても大切です。でも、そのひとつ前の段階として、イラストで仕事をしたいと思っているのに、いろんな事情からそれができないといういう人達にむけて、チャンスを増やすことが必要だと思ったんです。
例えば、少し前ならゲームの仕事をやろうと思ったら東京や大阪、福岡といった大都市に居る必要がありました。しかし今はネットを使えば日本中のどこにいてもゲームの仕事ができる世界になっていますよね。
色々な人達が働くことができる環境や働きやすい仕組みを作りつつ、クリエイティブの需要を増やすことでクリエイターの価値を高めていけば、現場がより多くのリターンを得られるようになって、そこで働くことができる人の数も増えていくと思うので、そういう市場をもっと広げていきたいですね。
クリエイターの皆様に向けて、まずチャンスを作るという部分をMUGENUPが担っていきたいと思っています。
――より現場に近いところでいうと、この10年間で外部のクリエイターさんとのコミュニケーションや仕事の仕方に変化はありましたか?
丹治:
ソーシャルゲームが盛り上がり、イラストの需要が爆発的に伸びた頃、発注する会社の側も、クリエイターの側もお互いに慣れていなくて、その間に入ってバランスを取りながら業界の発展に寄与してきたのがMUGENUPなんです。
ビジネスとしてイラスト素材が欲しい企業と、創作に思いを込めるクリエイターとの間で、ちゃんと契約をまいてトラブルがないようにしましょうとか、支払い期日はしっかり守りましょうというようなことを誠実に行っている内に信頼が積みあがって、結果的に4万人を超える方々が登録して下さり、企業からもクリエイターからも間に入る価値がある会社だと認めてもらえたのだと思っています。
それを実現できたのは社内のシステムのおかげなので、制作の分業とシステムの運用という2つの力を高めることがMUGENUPのクリエイターさんに対するベネフィットかなと思っています。
芝川:
僕が直接、現場でクリエイターを見ていたのは最初の5年くらいなんですけれど、ソーシャルゲームが盛り上がった初期は、発注する会社の側も受けるクリエイターの側も、お互いにノウハウやルール的なものがなく、多数のトラブルが起こっていました。
10年経って業界も成熟してきて、発注の仕方に関するコンセンサスも得られてきたし、クリエイターも長く続いている人は仕事の流れをよく理解されています。
このビジネスで、より多くのクリエイターの皆さんにお仕事をしてもらうためには、契約や秘密保持など色々なことを考えなければいけません。
企業やクリエイターの経験が知識として共有され、業界のスタンダードが作られてきた過程の中で、MUGENUPが果たした役割も少なくはないと思っています。
丹治:
残念なことに業界的には「不払い」する会社さんもいらっしゃるのですが、MUGENUPは絶対に不払いをしてこなかったということだけは、自信を持って言うことができます。
私が担当するようになってから、クリエイターの側から連絡が無くなって振込先がわからずお支払いができないというケースはあっても、それ以外は完全に支払いが完了しています。
伊藤:
あと、最初にアートディレクターとして入ってくれたメンバーが良かったということをすごく感じています。外部のクリエイターに対して誠実であろうと思えたのも、アートディレクター自身が絵を描く側の人間だからというのが大きかったと思います。
クリエイターと相対する時に自分がされて嫌なことはしたくありませんから、依頼する時の金額感やコミュニケーションの部分をすごく誠実に考えてくれたんです。そういう社内文化も、登録クリエイターの人達に喜んでもらえたんじゃないでしょうか。
基本的なスタンスは誠実であるべきだとADのメンバーは考えていましたし、我々コアメンバーもそれに共感できたことは良かったなと思います。
芝川:
一方で、クリエイターに寄り添う気持ちが強すぎると、厳しい指摘を控えたり、判断が甘くなるなど、クリエイターへのフィードバックに手心を加えてしまうリスクもあります。
クリエイターに寄り添う気持ちを大事にしつつも発注側とクリエイターのバランスがとれるよう、場合によってはMUGENUP社内のクリエイターが案件を巻き取ってスケジュールやクオリティを担保するなど、手厚い体制を組んでいます。
丹治:
フィードバックの甘さはビジネスとして見ると会社側が割を食ってしまうので良くないことなんですけれど、クリエイターに寄り添うという点では、彼らの心がくじけないようにゆっくり成長させてあげられるという面があるんです。
そういう一つ一つのことに良いか悪いか悩みながら、まさに企業とクリエイターの間に入って歩んできたという感じですね。
――それはシステムの恩恵だけではなく、人間が関わるからこそできたことでもありますね。
丹治:
そうですね。システムがあっても、それをちゃんと使える人がいないと正しい運用はできませんね。お客様であるゲーム会社のみなさまと、クリエイターのみなさまの両方に対して、誠実であろうとする会社の方針は初期のころからあったと思います。
クリエイティブ業界で仕事をしていると、発注する企業側と創作するクリエイター側のどちらかの側にたつことを求められる場面に多く遭遇します。
企業として発注する側に立ち、ちゃんとした物を納品してくださいという立ち位置の企業もあるでしょうし、楽しく描くことを最優先にお絵描きメディアみたいな形でクリエイターに寄り添う会社もあるのですが、企業側とクリエイター側の、両者の間に入って、あえてその場所で戦ってきたことがMUGENUPの特徴であり、他にないユニークさなんじゃないでしょうか。
▽第三回はこちら
MUGENUPのいまとこれから(3)クリエイティブ×テクノロジーの未来へ - MUGENUP10周年企画インタビュー -
2021.07.16
取材・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)