絵本『えんとつ町のプペル』制作秘話公開!〈前篇〉西野亮廣とクリエイターが語る異例づくしの絵本の裏側とは?
2016.11.15
お笑い芸人であり、日本最大のオンラインサロンを主宰し、何冊ものビジネス書を上梓し、絵本作家であるキングコング・西野亮廣さん。多彩な才能を発揮する西野さんが絵本『えんとつ町のプペル』で日本中の注目を集めたのは、2016年秋のことでした。
絵本としては異例ともいえる制作期間4年半、30名以上のクリエイターが集まった『えんとつ町のプペル』。大ヒットとなった本作は、展覧会やVR、プラネタリウムなどにもなり、2020年1月には舞台化、そしてついに12月25日には映画版が公開されます。
西野さんを代表する作品ともいえる『えんとつ町のプペル』ですが、しかし、西野さんの絵本はそれだけではありません。『えんとつ町のプペル』に続いて、2018年には『ほんやのポンチョ』、2019年には『チックタック〜約束の時計台〜』と2冊の絵本を発表しています。
絵・文・監督である西野さんのこだわりが詰まった両作品は、プペルと同じく株式会社MUGENUPが制作統括・アートディレクションをつとめ、西野さんのイマジネーションを美しいイラストとして描き出しました。
『映画 えんとつ町のプペル』の公開を前に、西野さんならではのこだわりをMUGENUPのペラン・アントワーヌさんに語ってもらいました。
▼目次
△『えんとつ町のプペル』の制作統括をつとめていたペラン。その後、『チックタック〜約束の時計台〜』のアートディレクションもつとめている。
ペラン:
自分は『えんとつ町のプペル』においても制作統括をつとめていたのですが、それがご縁で、西野さんから次の絵本として『チックタック〜約束の時計台〜』のご相談をいただきました。
MUGENUPが次回作のお話をはじめて聞いたのは、大ヒットしたプペルの反響がちょっと落ち着いたころだったと思います。
プペルと同じように、MUGENUPが軸となって分業体制でチームを組みました。最初に西野さんからストーリーとキャラクター、それに世界観などをいただいて、それを表現できるクリエイターを探したわけですが、今回はかなり多国籍なメンバーになりました。
例えばピエールさんとマリさんはフランスのクリエイターですし、ヨナスさんはベルギー、ピオトルさんはポーランドのクリエイターです。ピエールさんは、このためにフランスから来日してもらって、MUGENUPのオフィスで絵本に集中していただきました。
チックタックの制作にとりかかっていたころ、西野さんは絵本とは別に「しるし書店」というプロジェクトを進めていたんですね。本を読んだ人が、自分の印象に残ったところや気になったところに「しるし」をつけ、古本屋として出店できるプラットフォームです。
「しるし書店」のプロジェクトを通して西野さんのなかでイメージがどんどんふくらみ、じゃあその「しるし本」を売る本屋さんを絵本にしよう!となって、ポンチョのお話が生まれました。
△『ほんやのポンチョ』は、世界にたったひとつだけの「しるし本」を売る本屋さんの物語。
そういう経緯もあって、実は、ポンチョとチックタックは同じ世界観・同じ町のお話になっているんです。何よりも、チックタックにはポンチョもカメオ出演しています!
『ほんやのポンチョ』の最後、見開きで町が描かれているページがありますが、これをよーく見てから両作品のページをめくっていくと、なるほど!って思ってもらえると思います。
両方に通じるというのは表紙もそうなんですよ。どちらも森の中の町というのはもちろんですし、森のなかを川が流れているというのもそう。そしてどちらの表紙も、空には輪をもつ星が浮かんでいます。ぜひ見比べてみてください。
▼「しるし書店」
ペラン:
西野さんはイラストの描き込み、絵の中の密度を、とても大事にしています。
そもそも西野さんご自身が0.03mmという極細ボールペンを使った細密な絵柄ですし、最初の絵本『Dr.インクの星空キネマ』なんかもめちゃくちゃ細かく描き込まれています。それもあってか、やっぱり細かいところまで描き込まれた絵を追い求めるんですね。
△『ほんやのポンチョ』の表紙イラスト。樹々の枝葉はもちろん、電柱や電線、つり橋など細かく描き込まれている。
例えば『ほんやのポンチョ』の表紙イラストでは、背景の奥の方に何本もケーブルがかかっていたり、樹々の間にいくつも吊り橋がかかっていたりしますが、最初はここまで描き込まれていなかったんです。
でも西野さんから何度も「もっと!」とリクエストをいただき、MUGENUPやクリエイターたちもそれにこたえてどんどん描き足していきました。
西野さんはラオスに小学校をプレゼントしたりなどもされてますから、もしかしたら海外で見た風景、雑踏感や人々の活力みたいなものをイメージしていたのかもしれませんね。
▼西野亮廣氏のラフ画とMUGENUPが仕上げたイラスト
https://ameblo.jp/nishino-akihiro/entry-12348643849.html
▼ラオスの小学校での活動
ペラン:
それだけじゃなくて、西野さんの絵のこだわりは本当にすごいんです。やはり自分自身がお笑い芸人として舞台に立っていることもあって、表情やしぐさにはすごくこだわります。
狙ったようなわざとらしい可愛らしさは絶対にNGになる。プペルの時には、西野さんが自分でルビッチのポーズを自撮りした写真が送られてくるなんてこともありました。
△西野さんが特にこだわった炎
それと、西野さんの求める絵では、月の光にのびる影や、雲の合間からの陽の光の差し込み、逆光の演出など、光にまつわる表現が印象的です。中でもチックタックでは炎の描写にものすごくこだわっていました。
物語のクライマックスのシーンは何度リテイクとなったかわかりません(苦笑) 西野さんのブログでも、「恐ろしい炎ほど美しいんだ!」というコメントがあるほどです。
チックタックの最後の見開きの絵もそうですね。時計台があって、そして森中のホタルが一斉に輝いているシーンです。あそこの絵も、ぜひ見てみてください!
▼「恐ろしい炎ほど美しいんだ!」と述べられていた当時のブログ
△『えんとつ町のプペル』が発売された2016年、MUGENUPを訪れた西野さんと制作に参加したクリエイターたちと西野亮廣氏との記念写真。
ペラン:
自分たちMUGENUPは、日本最大のイラスト制作スタジオで、自社開発のシステムをとおしてリモートワークでイラストや3DCG、映像などを制作しています。登録クリエイターは4万人をこえ、日本に限らず世界のクリエイターともお仕事をしています。
プペルの時はメインのイラストを六七質さんが描き、30名を超えるクリエイターが参加しました。
プペルもポンチョもチックタックも、キャラクターのプロフェッショナルにはキャラクターを、背景のプロフェッショナルには背景を描いてもらっているわけですが、それぞれを得意とする人が集まっているからこそ、足し算じゃなく掛け算になって、素晴らしいイラストになっていると思います。
しかも、プペルの船やチックタックの時計台などは、3DCGのプロフェッショナルにも加わっていただきました。時計台はクラウスさんがデザインしてくれて、それを3DCGに組んでカメラをおいて構図をかため、その上からペイントしていくなんてこともやっています。
しかし、クリエイターはどうしても自分の絵柄やクセがありますから、ページによって絵の雰囲気が違ってしまう可能性があります。チームで作るからこそ、世界観の共有や統一感が本当に大事であり、そこはMUGENUPが中心となって進行管理やアートディレクションを行いました。
MUGENUPが制作の軸となってクリエイターが描いたキャラクターや背景をかけあわせ、それを西野さんに監修していただく。西野さんの「もっと!」というこだわりを表現するため、炎を輝かせたり、キャラクターの表情やポーズを調整したり、少しでもいい作品にするため修正を繰り返しました。
場合によっては絵そのものをリテイクすることもありました。西野さんのブログには制作途中のイラストもありますから、どう変わっていったのか探してみても面白いと思います。
クリエイターとして西野さんの創り出す絵本は、キャラクターたちのポーズや表情はもちろん、構図や描き込みなどひとつひとつにこだわりが詰まっています。
プペルに続いて、ポンチョ、チックタックとMUGENUPがお手伝いさせていただきましたが、ついに映画化だなんて本当にすごいことです。
絵本に関わったMUGENUPとしても、自分たちがお手伝いした作品が映画になるのはとても光栄ですし、プペルやルビッチたちが動いてしゃべるというのは夢のようです。『映画 えんとつ町のプペル』を心から楽しみにしています。
※このインタビューは、映画公開前の2020年11月に収録しました。
大人も泣ける大ヒット絵本『えんとつ町のプペル』が映画化!
原作のキングコング西野亮廣さんが製作総指揮・脚本をつとめ、アニメーション制作は精鋭クリエイティブ集団のSTUDIO4℃。『映画 えんと町のプペル』は、2020年12月25日(金)ロードショー!