便利機能「広角・望遠」を使ってみよう!空間から背景を作ろう(後編)

便利機能「広角・望遠」を使ってみよう!空間から背景を作ろう(後編)

前回に続き「背景を描きたくてもどうすればいいのかわからない」という初心者さんに向けて背景の描き方を解説します。

 

今回扱うのは「広角」「望遠」について。背景を描き慣れていないと難解な用語のように感じてしまいますが、実は「広角」「望遠」こそ、背景が苦手な人の助け舟になる便利機能なのです。

 

前回記事「パースがわからなくても大丈夫!空間から背景を作ろう(前編)」もぜひご覧ください。

 ▼目次
便利機能「広角・望遠」を知ろう
 ・モチーフの配置、どれが正しい?
 ・広角・望遠の便利ポイント
 ・遠くにある物を描く時の注意点
便利機能「広角・望遠」を使おう
 STEP1. 主役AとBを用意しよう
 STEP2. なんちゃって俯瞰図を作ろう
 ・何を見せたくて、何を見せたくないか

 

 

便利機能「広角・望遠」を知ろう

まず、広角・望遠がなぜ便利機能なのかを考えてみましょう。

■モチーフの配置、どれが正しい?


上の画像の女性と男性。この二人の距離感を正確に表した絵は、次の内どちらでしょうか? 


実は、広角・望遠を使えば、どちらも正解になるのです(※Aが広角ぎみ、Bが望遠ぎみの絵です)。

 

かなり乱暴に言ってしまうと、広角・望遠の技術を使えばモチーフを好きなサイズ感で配置できるということです。

 

表現したいイメージのためには、「遠くのキャラの顔もしっかり見せたい」「キャラも見せたいけど、建物の全体も見せたい」など、モチーフのサイズを自分の思い通りに指定したいものです。それを可能にするために、次は広角・望遠の特徴を確認しましょう。

■広角・望遠の便利ポイント

まず、広角・望遠とは要は何なのかを考えていきましょう。広角・望遠とは、本来カメラレンズを用いた撮影技術であり、これを絵で疑似的に再現しています。

 

(※今回は、広角・望遠をかなりかみ砕いて利用するので、専門的に技術を身につけたい場合は、写真撮影とカメラのレンズについて調べてみてください。)

ここで簡単に説明します。

 

【広角レンズ】
標準レンズより画角が広く、広範囲を撮影できるレンズ


【標準レンズ】
人間の目で見る映像に近い画角で撮影できるレンズ

 

【望遠レンズ】
標準レンズより画角が狭く、狭い範囲しか撮影できないが、遠方を綺麗に撮影できるレンズ。望遠鏡などで見た映像を撮影するイメージ。
 

今回は、これをもう少しかみ砕いていきます。

先ほどの二人を真上から見てみましょう。大体こんな感じです。では、広角と望遠の違いを見ていきましょう。標準はその間くらいと思ってください。 


これが広角レンズ・望遠レンズそれぞれで見える範囲です。正確には、画角の数値次第で変わってくるのですが、今回は見た目で違いを覚えましょう。
 
画像で分かる通り、広角は広い範囲を画面に入れ込むことが可能で、望遠は画面内に狭い範囲しか入れられません。では、この違いが、どう構図に影響するのでしょうか? 


※上の画像の緑のラインは、画面のサイズ(額縁のサイズ)を表しています。

 

広角から見ていきましょう。これは先ほどの俯瞰図をカメラから見た図です。額縁とキャラとの比率を見てください。俯瞰図と同様に、女性に比べて、男性の方は額縁に対してかなり面積が小さいのがわかります。 
 

この情報を覚えたまま、今度は望遠を見てみましょう。 

広角と同様に、こちらも額縁とキャラとの比率を見てください。今度は、女性と額縁の比率に比べて、男性の面積は額縁に対して広角の時より明らかに大きいのがわかります。これをカメラから見ると…… 

このように、広角よりも額縁に対して男性が大きく写っています。
 
これが広角と望遠の違いです。広角・望遠は、「俯瞰で見た時の、額縁とモチーフの面積の比率の違いである」ということを覚えておいてください。後で紹介しますが、これが絵を描く時にとても便利です。

■遠くにある物を描く時の注意点

広角・望遠の便利さはわかりましたが、このままだと「本当はどれほど離れているか、距離感をうまく表現できない」という問題に直面します。
 
次は、モチーフのサイズ感以外の違いを見ていきましょう。サイズ感以外の違いは、簡単に言うと以下の2つです。

  1. 望遠の方が、ピントが合ってない部分がぼけやすい
  2. 望遠の方が、モチーフのサイズに差が生じにくい

 
1.のぼけ加減は焦点距離によって変わるのですが、少し専門的な話になるので、今回は「ピントが合ってない部分がぼけやすい」と覚えておいてください。


上は、女性にピントを当てた場合。下は男性にピントを当てた場合です。なかなかドラマチックな絵に仕上がるので、試してみてください。
 
2.のモチーフのサイズに差が生じにくいとは、望遠レンズが遠い景色を切り取って引き延ばして撮影するがゆえに発生する現象です。パースに置き換えると、「パースがついていない」状態のことです。 

例えば、二点透視の箱を描く場合、画像のような形状を思い浮かべると思います。広角ぎみならこれで問題ありません。しかし、望遠の場合は、モチーフのサイズに差が生じにくいため……

 ……先ほどと同じ図形もこうなります。遠いものほど、この現象が強くなります。

 

サイズの差を正確に描きたい場合は、パースの知識が必要になりますが、遠くの建物をなどを描いていて何か違和感を感じたら、モチーフのサイズ差を減らしてみてください。それだけで違和感がだいぶ軽減するはずです。
 
この1と2が、映画界ではかなり重宝されているようで、映画では望遠の絵が多く使われています。臨場感やドラマチックさを出したい場合は、ぜひ望遠を使ってみましょう。

便利機能「広角・望遠」を使おう

では、今まで登場したポイントを利用して絵を描いてみましょう。

STEP1. 主役AとBを用意しよう 


まず、特にメインになる2つのモチーフ、主役AとBのサイズと配置場所を決めましょう。これはカメラから見た図です。後々微調整するにせよ、このAとBが広角・望遠を決める基準になります。

 

もちろん人物である必要はありません。AとBは似たサイズの物の方が扱いやすいです。

 

もし描きたいモチーフの中に似たサイズの物がない場合は、架空のBを作っておいて、サイズ感だけ計って実際には描かない…という方法もあります。

STEP2. なんちゃって俯瞰図を作ろう 


今度は、先ほど説明した真上から見た図を作っておきましょう。上記で決めたA・Bのサイズ感にだいたい当てはまる感じに配置します。

 

ここで広角か望遠かが決まりますが、どこからが広角、どこからが望遠か、また正確なサイズ、距離などは、画角などの専門的な情報が必要になるので、今回はなんちゃって俯瞰図です。

 

正確な情報ではないですが、この設計図を作る過程を挟むだけで、背景が格段に描きやすくなります。 

二人だけでは画面が寂しいので、他のキャラクターも入れてみたいと思います。二人手前に追加しました。

 

この時、モチーフ間の距離が広いと奥行きのある絵になります。これをカメラから見た図に配置すると…… 

……こうなります。モチーフのサイズは、先述した額縁との比率を参考にしましょう。 


次に橋や木なんかも追加してみました。今度は欲をかいて、もっと遠くの建物なども入れたくなってきました。しかし、先ほどの俯瞰図では、遠くの建物は配置できません。

そんな時は、なんちゃって地図を俯瞰図にするのも方法の一つです。さらに高いところから見た俯瞰図です。より精密な俯瞰図を用意しておくと、複雑な背景にも対応できます。これをカメラから見ると… 


あとは、ライティングを調整したり、もの足りなければ街頭や人混みを足したりすれば…… 

背景の完成です!

■何を見せたくて、何を見せたくないか

広角・望遠で重要なのは、あくまで「何をどんなサイズで見せたいのか」そして「何を見せたくて、何を見せたくないか」です。

 

例えば、写真なら「この建物は写したいが、隣にあるゴミ捨て場を写したくない」となったら、ゴミ捨て場が写らないように広角・望遠を調節しますが、絵でも同じです。

 

自分のイメージに合わせて画角(カメラから見える範囲)を広げたり狭めたりしてみてください。

著・画 ゼロモモ

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