タルイラストの中でも特に高級感がある「厚塗り」。油絵のように、透明度の低い色を重ねて描写する塗り方で重厚感、立体感を強調した絵画風の表現ができます。
今回は厚塗りメイキング~踊り子編~をお届けします。
実際にイラストを塗ったメイキング形式なので、効率の良い塗り手順や塗りに必要な考え方を、具体的に理解しやすい内容になっています。講座をきっかけに、リッチな厚塗りに挑戦してみましょう。
4つの流れと、2つのルール
全体の流れは大きく分けて4つです。
1.光源を定め、配色を決める
2.詳しい明暗を決める
3.描写を進める
4.全体のバランス調整、線画に色をのせるなどの仕上げ
また、塗りの際には下記の2つのルールを守って制作を進めましょう。
- イラスト全体を占める割合が多いパーツから取り掛かる
- 加工機能は仕上げのみに使用する
この4つの流れと2つのルールを徹底することで塗りの途中で混乱することなく、細かい描写が続いても全体のバランスを失わず仕上げることができます。
全体を見ながら進める
使用ソフトにもよりますが、常に全体を表示しながら部分の作業を進められるようにウインドウは細かい描写用、全体用の2種類を同時に起動しておくと良いでしょう。
Photoshopの場合は
1.ウィンドウメニュー>アレンジ 内にある 「〜〜〜の新規ウインドウ」を表示
2.アレンジまたは2アップ横 などで2つのウインドウを並べる
3.片方は常に全体像が映るようにする
という設定が有効です。
1 光源を定め、配色を決める
1-1 配色
イラストの設定に基づき、配色と光源を決めます。
今回は踊り子という設定なので「宴=夜+屋外」とシーンを想定して光源は画面左上から、光の種類は月明かり(ぼんやりとした光)に設定しました。背景を青とし、それが映えるように髪と布は暖色を多めに配色しています。
2 詳しい明暗を決める
2-1 影付け
光源に基づき、大きなブラシでざっくりと明暗をつけます。後の工程で、影は薄くすることが出来るのでこの段階では仕上がりイメージよりも明暗をわかりやすく描いておきましょう。
特に顔は大事なパーツなので細かく手を入れたくなりますが、後回しにして、まずは大きな明暗をはっきりとさせることに専念しましょう。
大きな明暗が描けたら、影を細かく付けていきます。
頭=球体、身体=直方体などパーツの形を想像しやすい基本図形に置き換えて作業します。
明暗の階調は、素材により異なります。
- 布:明暗の差は少ない。境目はグラデーションなどでぼかす。
- 金属:明暗の差ははっきりと。光の筋が残るようにする。
など、それぞれの特性を出しながら塗りましょう。
2-2ハイライトを入れる
明暗を強調する為、各パーツで一番光を受けた部分にハイライトをいれます。この工程で質感が決まるので、素材に合わせて量と形を変えましょう。
質感とハイライトの強さは以下の通りです。
- 髪=つやつや:キューティクルが光るイメージで、実写よりも強めに。
- 布=やわらかい:弱めに。縁のみでもOKです。
- 金属=固い:強めに。直接光のラインを入れます。
ポイントは「入れすぎないこと」。
目立たせたい部分、強く光の当たる部分を見極め、アクセントとして使うことで明暗の全体感を残しつつ、メリハリを出すことができます。
3 描写を進める(④~⑧)
3-1 描写:顔
デジタルイラストの場合は顔の立体感は出さず、平面的に塗ることで可愛らしさが残るイラストになります。光と影の境目がなくなるよう、陰影の中間色をスポイトで取ってはエアブラシで吹き付け付ける作業を繰り返し、肌を陶器のように滑らかにします。
全体が塗れたらアクセントとして
- 輪郭、頬骨、唇にハイライト
- 目のくぼみ、鼻の下に赤味
を加えると、肌ツヤと血色が良い女性的な肌になります。
瞳はガラスのような透明感を出すよう、上下は薄めに塗ってキラっとさせました。
3-2 描写:身体
身体の肌を塗ります。体は骨格、筋肉の筋など、立体感をいかに表現できるかがポイントとなるパーツです。今回は踊り子なので、しなやかな四肢と対照的な腹筋の力強いラインを描くなど女性キャラクターとしては少しマッチョで、ひきしまった身体に仕上げます。
細かい描写が進むにつれて全体のバランスを失わないように虫眼鏡ツールで画像を拡大、縮小してチェックしながら進めましょう。
落ち影
影のアクセントとして、物の形に沿った影(落ち影)を入れると物の前後感がアピールできます。
3-3 描写:髪
髪は、頭部球体→毛束のブロック→一本一本を目立たせるあそび毛、と面積の大きな部分から小な部分へ、描写を進めます。明暗は金属とほぼ一緒ですが、毛束と遊び毛によって「面」+「線」という、髪独特の質感が出ます。
球体を意識して塗ったあと、毛束のブロックごとに中間色で境目を消し稜線と光の中心にハイライトを加えます。
あそび毛は光の筋を描けば描くほど、1本1本が光るサラサラ具合を演出できます。
仕上げに後頭部と両脇の毛束に環境光の青色をプラスし月光を反射したような煌めきと透明感を出しました。「1パーツだけ見ても設定(夜+月明かり)がわかる」このひと手間が統一感のある仕上がりに繋がります。
3-4 描写:布
布で重要なポイントとなるのは「しわ」と「光」です。攻略のカギは「しわは、布と何かが接した時にできる」という仕組みです。
今回の課題では下図斜線部分、布と装飾品が接している部分にしわができます。
しわ付近としわ以外の2種類に分けて描写を進めます。
- しわ付近:布の密度が高く、色は暗め。明暗が際立つようハイライトと影を入れます。
- しわ以外:布の密度が低く、色は明るめ。しわから離れるほど光を拡散させ、明暗の差をぼかします。
線画で描かれていない部分を塗りで補うイメージで、構造を考えながら進めていきましょう。
3-5描写:金属、宝石
元の明暗に基づき、金属と宝石の描写を進めます。金属特有のテカリ感は、単色のバーを連ねるように描いて表現します。
金属の表現が苦手な方は、自分のイメージ以上に差をつけた明暗2色を隣り合うように配置すると、金属らしいキラキラ感が出ます。金属部分が、単色のバーの組み合わせなのに対し宝石部分は複雑な色味と輝きを表現するよう面によって色を変え白いハイライトを多く入れることで強い照り返しと反射を表現しました。
「金属、宝石など固い材質はハイライトが多め」と覚えておきましょう。ハイライトの量や強さを、素材の硬さに応じて変化させることでそれぞれの質感の差を表現できます。
▼宝石っぽく見える塗り方はこちらをチェック(いちあっぷ講座)
https://station.mugenup.com/dojo/2015/004
4 全体のバランス調整、線画に色をのせるなどの仕上げ
4-1仕上げ:色味の調整
ここまで影と光(黒と白)を足しながら塗っているので作業が進むにつれて、彩度が下がってきます。
色のくすみが気になったら
- オーバーレイで色味をプラスする(今回は布の色が目立つように黄色)
- 環境光を入れる(今回は月明かりなので青色)
- 反射光の色味を揃えて入れる(今回は背景色に合わせた青色)
など、適宜手を加えてください。
4-2:加工機能を使う
仕上げにイラスト制作ソフトにある機能を利用して、全体のクオリティを上げます。あくまで加工機能は料理の塩コショウ的な役割なのでイラストを見た時、「○○加工を使った」とわかる使い方はNGです。
今回は線画だけにグロー効果を使い、線の印象を弱めました。全体にかけるとぼけた印象になるので注意が必要です。
画面全体に光を加え、ハイライトを強調するように白をプラスして完成です。
いかがでしたでしょうか。リッチな厚塗りに挑戦してみてくださいね。
他の塗り方はこちらを合わせてご参照くださいね。
▼厳選!デジタル絵で覚えておきたい塗り方4種類
https://station.mugenup.com/dojo/2014/003