疾走感溢れる「走り」の演出。いざ描いてみるとどうしても走っているように見えず、止まって見えてしまう方も多いのではないでしょうか。
今回は「走る」動作に焦点を当てて、切り取るタイミング別の作画のポイントをいくつかご紹介します。
▼目次
「走る」フォームに必要なもの
チョイスする瞬間
① 着地する瞬間
② 後ろ足を蹴り出す瞬間
③ 重心が安定を失う瞬間
「走る」フォームに必要なもの
まず、今回のテーマ「走る」フォームの定義を確認しておきましょう。
※今回は単純に「走っているように見える絵」を目標としているので、筋肉など人体の複雑な仕組みについては考慮しません。
※フォームは走法やスピードによって変動します。「これらのポイントを押さえておけば、少なくとも走って見える」ものとして捉えてください。
「走っている」ことが伝わる絵とは、以下の要素をしっかり捉えた絵のことです。
- 「歩き」ではないと明確に伝わる
- 今まで走ってきたことと、これから走り去る様子が想像できる
これらの要素が不足していると……
左の作例のように「この子は今、走っている」と伝えたいのに、意図通りに受け取ってもらえなかったり、前に進んでいるように見えなかったりしてしまいます。
酷いと片足を上げて棒立ちしているように見えてしまう可能性もあります。
これから「走っていると伝わりにくい」状態を克服するためのポイントをいくつかご紹介するので、どうしても走っているように見えない時にぜひ導入してみてください。
チョイスする瞬間
絵は静止画なので、一連の動きから1ショットを切り取るわけですが、どこを切り取るかで印象が大きく変わります。
どこを切り取っても自由ですが、より走っている表現を強く演出したい場合は、以下の3つのタイミングがより効果的です。
- 着地する瞬間
- 後ろ足を蹴りだす瞬間
- 重心が安定を失う瞬間
この3つのタイミングは、走るという動作の中でも大きくポーズが変化するタイミングです。この時特に重要になるのが、膝(足)・腰・肩・肘です。今回は膝(足)・腰について言及します。
① 着地する瞬間
着地する瞬間とは「前に跳躍した後、足が地面に着いた瞬間」のことです。足を開き切ったダイナミックなポーズなため、歩きとの差別化も図りやすく、また足が地面に着いているので地面との関係性も描きやすいです。
★この瞬間の作画ポイント★
【a】足がほぼ開き切っている状態なので、両足の膝の位置はほぼ一緒です。
【b】膝に角度が着いているので、ふくらはぎはほぼ見えません。
【c】足の裏が少し見えます。
【d】前方の足裏は見えず、後方は綺麗に見えます。
【e】手前に投げ出しているので、奥にある太ももよりふくらはぎの方が長く見えます。
【f】対角線上の腕と足が同じ方向に動くので、腰はひねられた形になります。このひねりを視覚的にわかりやすく誇張すると、「走っている」感が強く出るのでオススメです。※ これは他の2つも同様です。
【g】少し体を斜めにして上半身から足までの直線を強調すると勢いを演出しやすいです。
② 後ろ足を蹴りだす瞬間
後ろ足を蹴りだす瞬間とは、「前傾姿勢になって足を蹴り出す瞬間」のことです。圧縮された力が一気に解放されるタイミングなので、3つの中で最も勢いのある走りを演出できます。
★この瞬間の作画ポイント★
【a】他の2つと違い、膝の高さが両足で大きく違います。
【b】両足とも足の甲が見えます。
【c】両足とも足の裏が見えますが、全面は見えません。
【d】伸ばした足を弓なりに、反対側はくびれを強調すると、「今から蹴り出すぞ!」という圧縮された力を演出しやすいです。
【e】このタイミングは、つま先立ちで身体が伸び切っているので、他のタイミングより頭の位置が高いです。
③ 重心が安定を失う瞬間
重心が安定を失う瞬間とは、「体が大きく傾き、前方に倒れ込んでいる」と明確にわかる瞬間です。
上述の2つと違い、足も閉じ動きの少ないポーズなので、3つの中では最も表現の難しい瞬間です。しかし、他2つほど勢いを演出したくない場合には効果的です。
★この瞬間の作画ポイント★
【a】膝の位置はほぼ同じですが、少しでも高低差をつけていた方が走っている印象を強められます。
【b】足の裏を完全に地面に着けている瞬間もありますが、あえてかかとが浮いたタイミングを切り取ることで、走っている印象を強めましょう。前から見た絵の場合は、ちゃんと足の甲が見えるようにしましょう。
【c】基本的に走っている絵で足を垂直にするのはどちらに進んでいるかわからなくなったり、勢いがなくなってしまうので、NGです。このタイミングの場合は、足が少し曲がっています。
こうして見てくるとわかると思いますが、この講座の一番最初の画像で登場した失敗例(紫の服)の問題点は、「腰のひねりがないこと」「足が垂直になっていること」の2つです。
このように、「走る」フォームでも切り取る瞬間一つで作画のポイントが全く違います。一つ一つは些細な違いですが、絵にしてみると案外大きな違和感になるので、おかしいなと感じた時は各ポイントを疑うようにしてください。
著・画 ゼロモモ
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