「絵の技術」だけじゃ足りない– イラストレーター:イセ川ヤスタカ(後編)
2015.11.03
クリエイターインタビュー第三弾はイラストレーターのイセ川ヤスタカさんです。
『重力迷宮のリリィ』(著/金子跳祥 電撃文庫)や『TRPGしたいだけなのにっ!』(著/おかゆまさき 電撃文庫)の表紙挿絵担当をはじめ、『拡散性ミリオンアーサー(Vita版)』(スクエアエニックス)などのゲームイラストも手がけている現役イラストレーターさんです。
インタビュー前編では
などイセ川さんらしい、独自の考え方がギュッと詰まった内容をお届けします。
ファンの方はもちろん、イラストレーターとしての方向性に迷う方や、アーティスト志望の方にとっても何かヒントになるかもしれません。
――絵に興味をもったのはいつ頃ですか?
小学生時代は図工の授業はもちろん、流行していたポケモンのイラストを模写した頃がきっかけです。周りの仲間から上手いと褒められて、絵を描くのが面白いと思いました。当時は、牛乳のフタをお金に見立てて、模写したポケモンイラストと交換することが流行っていて、どれだけ多く集めるかみたいな遊びをやっていました。一日100枚集めたりして、小学生時代から「絵を売る」意識が芽生えていたのかもしれません。(笑)
―― 絵の仕事をしたいと思ったきっかけはなんでしょうか?
きっかけは進路を選ぶときに勉強の分野に進むと、大学の准教授であった父と比較されると考えたからです。当時は家庭の教育方針で国公立の大学進学が絶対条件で、小学校卒業後は中高一貫の進学校に進学して勉強三昧の生活でした。
周りの人間に父と比較されるのが容易に想像できたため、比較されにくい美術系の国公立に進学しようと思い、絵もたいして上手くなかったので美術予備校に通って、センター試験の比重が大きい京都市立芸術大学に進学しました。
大学では絵画の油絵専攻を選択し、当初は現代芸術の方へ進もうかなと思っていましたが、今(2015年9月)から二年ぐらい前にオランダ人のアーティスト、ハンス・アビング氏の著書を読んで転機が訪れました。
ハンス・アビング氏は「アーティストには三種類いる」と説きました。
1.お金持ちになるアーティストが1%
2.生活できるけど貧乏なアーティストが大多数
3.残りは生活ができないほど貧乏なアーティスト
それを知って、アーティストは「お金にならない」と判断し諦めました。
野球やバスケットボールなどもそうですが、日本人が本場へ行って活躍できるのはほんの一握り、またはいない、という難しさを考えた結果です。
その後、アニメや漫画などが好きなこともあり、需要が高いコミックイラストの道を選びました。
一番最初のお仕事はソーシャルゲームが伸び始めた頃に大手イラストサイト経由からお仕事の依頼を受けていましたが、あまり良い仕事ではなかったです。仕事を始めたばかりの頃は、先輩に紹介して頂いたゲーム制作会社のアルバイトが一番良い経験になりました。
アルバイトを通して、イラストレーターとしての生き残っていくために必要な考え方を身につきました。(制作現場の)チームリーダーの方がとても絵が上手く、イラストレーターとしてどうやって勝つかを考えたときに「絵が上手だから勝ち」ではなくて、「売れた方が勝ち」だなと。
どうしたら売れるかを考えた結果、「女の子×メカ」のイラストを描くようになりました。
なぜなら女の子がたくさん登場するゲームは、男性がターゲットで、男性の9.5割が「女の子が好き」ですよね。また男性が「他に何が好きか」を考えた結果、「ガンダムが好きだ」と気づいて、「女の子×ガンダム」で作れば売れると思った結果です(笑)。
特に「女の子×メカ」のイラストはシャッキっとした女の子にメカを合わせたスタイリッシュなキャラクターが多いですが、「メカに『ごちうさ』(ご注文はうさぎですか?)のようなフワッと感を乗っけたら、ライバルが少ないんじゃないか」と思い、差別化を図りました。ライバルが少ないと仕事が来やすくなるので、マーケットの隙間狙いですね。
一番影響を受けた方は模型雑誌の連載企画『ガンダム・センチネル』のメカニックデザインを代表するカトキハジメさんですね。
他にも小学生時代は『ファイナルファンタジー』のイメージイラストを描いている天野喜孝さん、『ドラゴンクエスト』の鳥山明さん。中学、高校時代は映画『エイリアン』でのデザインで知られているH・R・ギーガーさんや映画『ブレードランナー』『∀ガンダム』のデザイナーのシド・ミードさん。大学時代ではビジュアル面で『ファイブスター物語』の永野護さん、思想的には現代芸術家の村上隆さんやGAINAXの元社長の岡田斗司夫さんなどですね。
最近は『ゴジラ』シリーズや『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』のポスターを描かれている生頼範義さんなど挙げればキリはないですがSFを中心に映画やアニメからの影響が大きいです。
模型雑誌のプラモデル(プラモ)の完成作例っぽくすることを意識しています。特に質感が特徴的ですね。実際の兵器も塗装されると金属に樹脂が乗ることになるので、未使用状態の表面はツヤのない質感になります。また、尊敬しているイラストレーターのカトキハジメさんがマットな塗り方をしているため、僕のイラストにもその影響が出ていると思います。
女の子のキャラクターは『ご注文はうさぎですか?』のKoiさんからの影響を受けています。女の子の絵柄はトレンドの変遷があるので、今後は自分のテイストが変わるかもしれません。
――『重力迷宮のリリィ』のイラストを担当されたきっかけ、キャラデザでこだわったポイントをお教えください。
以前にイラストを担当した『TRPGしたいだけなのに!』でご一緒した電撃文庫の現編集長から連絡を頂いたのがきっかけです。海外SF作品のオマージュが多い作品なので、キャラクターの衣装など細かいところで有名な海外作品のオマージュをするように心がけています。若い読者が多いので、全然気づかれないことが多いですが……。
コミックマーケットでは、萌え系の女の子の顔や胸を前面に押し出したグッズ展開が多いので、こちらでも差別化を図ろうと考えています。僕より可愛い女の子や魅力的な体を描く人はたくさんいて、同じ土俵でやっても勝ち目がないので常に「別の売り方」ができるようにとは考えていますね。
あとCGイラストの多くはネットで見られるので、印刷物の紙の品質にこだわるなどアナログならではの付加価値を付けることも意識しています。モノとして欲しくなるような。
コミケでは実際に自分の絵を喜んでくれる方々にお会いできるのが楽しいです。普段の仕事ですと、あまりその実感が得られないし、絵の感想なども直接頂けることも嬉しいです。
現在、アーティスト活動は休止していますが、2つの違いは、
という認識で捉えています。
よく芸術家は自由だと言われますが、実質は西洋絵画の文脈を熟知した上で新しい価値を提供しなければならないので大変だと思います。その証拠に世界で通用している作家のほとんどが大学院まで出ている方が多いですよね。岡本太郎の影響か芸術は自由なものと考える日本人が多いですが、その岡本太郎すら東京芸術大学中退と意外にも高学歴だったりします。
▲2013年のイセ川さん個展の様子
同学年生の中で最初にギャラリーに声をかけられるという目標を掲げ達成するまでは楽しかったですが、それ以降は明確な目標もなくなってしまったので、あんまり良くなかったですね……(笑)
と言うとそれまで応援してくださった方もいるので無責任な感じになってしまいますが、色々含めた、1作家としてこれからも応援していただければ幸いです。
需要と供給を考えたイラスト制作をすることが強みであり、こだわりだと思っています。マーケットごとに「求められているが存在しないもの」があるのでそこを狙うようにしています。
最近はメカ娘のお仕事をさせていただくことが多いので、今度は挑戦した事がない様な新しいジャンルのお仕事をしてみたいですね。最近の一番の夢は、即売会などで自分の携わった作品の二次創作をみることでしょうか。
イラストレーター、アーティスト、京都芸術デザイン専門学校非常勤講師。京都市立芸術大学卒。『重力迷宮のリリィ』(電撃文庫)、『TRPGしたいだけなのにっ!』の表紙及び挿絵担当。ゲーム関連では『拡散性ミリオンアーサー(Vita版)』(スクエアエニックス)、『城姫クエスト』(GREE、KADOKAWAアスキー・メディアワークス、AZITO)、『ミリオンチェイン』(サイバーエージェント)などでイラスト数点を手がけている。アーティストとして2015年にグループ展『プラレシオ』(アンテナメディア)、2014年に個展『マジックプラリズム』(アンテナメディア)、個展『ネコソギグラフィカ』(三条祇園画廊)の活動。現在は、アーティスト活動を休止している。